福岡家庭裁判所飯塚支部 昭和38年(少)1106号 決定 1963年9月05日
少年 T(昭一八・一一・二九生)
主文
少年を福岡保護観察所の保護観察に付する。
理由
(罪となるべき事実)
少年は、○○大学に在学しながら家庭の都合により住居地でバー「○○○○」を経営する母の手伝をしているものであるが、
第一 かねて父多○松○当五九年が福岡県田川郡○○町下○○に情婦藤○○江を住わせ家庭をかえりみないのみか母に対し辛く当ることに憎悪の念を抱いていたところ、昭和三八年○月○日夜、松○が「女と手を切り家業に精を出す」旨言明しながら翌△日夜、また○江方を訪ねたことを知つて憤激し、これを面詰しようとして翌□日午前〇時頃軽自動車を運転して○江方に赴き、詰問しようとしたが、父が「お前等と話し合うことはない。帰る」といつて同家を出て帰途についたので、前記軽自動車を運転し、時速約三〇キロでその後を追つたところ、同町△町地内の道路左側を歩行する同人を前方約二〇メートルのところで発見したが、咄嗟に、同人の右側ぎりぎりを通過して脅し、場合によつては同人に傷害を与えることになるも又やむなしと決意し、ハンドルをやや左に切つて同速度で前進したため、車輪左前部を同人に追突転倒させ、因つて同人をして同日年前二時一五分頃田川市大字××△△医院で頭蓋底骨折左頭頂骨開放性骨折により死亡させ、
第二 同年△月○○日午後九時五〇分頃、田川市□区□町□□映劇前路上において小型乗用車を道路のまがりかどから五メートル以内の部分に駐車し
たものである。
(罰条)
第一の罪 刑法第二〇五条第二項
第二の罪 道路交通法第一二〇条第一項第五号、第四四条
(主文掲記の保護処分に付した理由)
本件は重大事案であつてその結果を重視して、刑事責任を追及するのが至当であるとの考え方もありえようが当裁判所は敢てその途をとらなかつた。その理由は次のとおりである。
少年は生来まじめで進んで母親の手伝をするなど親思いのところがあり、中学、高校、大学を通じ成績こそあまりよくなかつたが友人間の信頼も厚かつた。又、道交法違反を除き非行歴もない。
鑑別結果によるも、知能面、性格面になんら異常な点は見出されなかつた。性格的には気の弱い温順消極的な面がみられかかる傾向の少年だけに、本件は実父の女関係を中心とした乱行によつて苦しむ母親及び一家を思う余り、反動的瞬間的に実父に何とか反省を促したいと思い込み、父を脅かし自己の決意を示す積りの行為が誤つて重大な事件を惹起する結果になつたとみられる。
少年は本件を深く悔み審判廷においては父のために立派な人間になつてその冥福を祈りたいとその決意の程を披瀝している。一方、社会感情も本件には極めて同情的で、当裁判所にも多くの嘆願書が寄せられた。又、大学側も裁判所の処分次第では引続き在学させる意向のようである。
以上の諸事情を考慮すれば、この際、少年の前途を考え、敢てその刑事責任を追及するよりも、むしろ保護処分を以て遇するのを至当と考える。
少年は本件につき、自責、自己非難の気持がいまだ過剰であるため、暫時適当な保護司の協力を得て、その心的安定をはかる必要があると認めるので少年法第二四条第一項第一号を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 片山欽司)
参考1
昭和38年少第1106・11965号
少年調査票<省略>
参考二
鑑別結果通知書
福少鑑収第1528号<省略>